つぶて

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 私の夫は妙なところで生真面目で、季節の行事はちゃんとこなしたい人だった。今年も花火に連れていってくれたし、中秋の名月はちゃんと二人で眺めた。玉兎という素敵な言葉を教えてくれたのも彼だった。私としてはとてもありがたいのだが、彼はいかんせんマイペースだった。
 今年は何の秋にしようか、と夫は腕を組んでいた。せっかく涼しくなってきたし運動はしたいな。食欲も出てきたしな。体力に余裕が出てきたから読書もしようか、などとのたまっている。
「何々の秋っていうけど、何入れてもいいの?」
「そうだよ。友達は、石橋を叩いて渡る秋にするって」
厄年か何かですか。
「だから今年は、スポーツ、食欲、読書の秋します!」
「はいはい。がんばってね」
三日後、夕食を作っていると、案の定、夫はリビングで寝転がってテレビを見ていた。
「ランニングは?」
「今日は暑いから秋じゃないんだよ」
二日後、夕食担当の夫がお茶漬けでいいかと言う。
「食欲は?」
「今日は夕立が来たから秋じゃないかも」
次の日、夫が寝落ちしそうだったので、
「読書は?」
「今日は……涼し過ぎたから……秋っぽく…………」
私は腕を組み、適当な言葉を探した。
ああ、あった。
シュレーディンガーの秋だ、これ。


9/26/2024, 4:39:56 PM