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秋風に吹かれて、三千里。
峠を越え、山際に沿って稜線を下りると、野分峠という峠がある。
天然の切通しが大穴を開けており、そこを通る風が、山まで吹き上げるため、野分峠と名付けられたらしい。
一本松の生えているところを、右に折り、石段を下る。麓まで降りる緩い坂を降りていくと、人里が見える。緩やかに、たわんだ電柱の点々と立ち並んだ海べりまでの街並みが一望できる。
漁師町として栄えた大神灘の風景は、現在では路面電車が、海沿いの道なりに一本走る。
このあたりも、随分文明化されたものだ、と感ずる。
私は山道を、踏みしめながら、旅籠はもうすぐそこだ、と精を出した。

11/14/2023, 10:15:10 AM