私は、魔法の力を失った。
この指先には、二度ともう、光は灯らない。
枯れた花を芽吹かせた日も、分厚い雲を追い払い星を眺めた夜も。私の隣には、いつもあの人がいた。
生まれつき、体内で魔法の力が滞ってしまっていた私は、それをうまく表に出して使うことができなかった。
母も、父も、兄妹たちも。手を振るだけで魔法を軽々と操る彼らは、誰ひとりとして、私の苦しみをわかってはくれなかった。
この身のうちには、たしかに魔力のあたたかさを感じるのに。それを示す術はなかったのだ。
幾度も、指先を擦り合わせても、私の前には魔法は現れてくれなかった。
ただ、その人だけが。
私の手を握ってくれた時、魔法を引き出すことができた。
どうして、普通の人間であるその人が、そんなことができたのかはわからない。
じんわりと、体の中を通ってきた魔法が、指先を温め、あたりが明るくなったとき。
私は生まれてはじめて、自分の力を知った。
それからは、いくつもの季節をその人と共に過ごし、小さな用事と、少し大きな事柄に、魔法を使った。
けれども、それは決して、万能な力ではなかった。
その人の、零れ落ちていく命を押し留めることは、とうてい叶わなかった。
祈るように握りしめた指先が、だんだんと冷たくなっていったことを、今でも覚えている。
あの時、私は、少しでも苦痛を和らげることができただろうか――。
どうか。
消えてしまった魔法が、あちらで、あなたを温めてくれていることを願っている。
『送る光』
(凍える指先)
12/9/2025, 6:45:04 PM