逆井朔

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お題:神様が舞い降りてきて、こう言った。

「なんでも一つだけ願いを叶えよう」
 神々しい光を背後に背負い、シンプルだけれど上質な衣服に身をまとった老人が空からゆっくりと舞い降りてきた。
 もしかしてこのは何かの演劇の舞台だっただろうか、と一瞬だけ考えたけど、なんのことはない、ただのうら寂しい公園だった。
 当然ながら、舞台の上部とも呼ぶべき宙空に彼を吊り下げるピアノ線などあるはずもない。だから、これは本物の神様だと直感した。
 その「神様」が舞い降りて言ったその一言に、私は一も二もなく即答した。
「強くてニューゲームでお願いします」
「……え? なんて?」
神様が耳殻を己の掌で覆うようにして訊き返してくる。やはり神様といえど寄る年波には勝てないのかな、とぼんやりと思う。
「強くてニューゲーム。知りません? 結構有名だと思ったんだけどな。
 クソゲーな人生をリセットして、ぬくぬくゆったりイージーモードの人生を送りたいです」
 ノンブレスで一気に言い切る。流れ星に出会ったら即言えるようにトレーニングしていた成果がまさかこんなところで発揮されるとは思わなかった。元々早口言葉が得意だったのもあって、あっという間に言い終わってしまった。
「なんじゃそりゃ」
 こてんと首を傾げる神様に、こちらも自然と首を傾げていた。こういう願いごとを聞いたことはあまり無いのだろうか。若者や社会人の多くが異世界転生モノにハマって久しい現代において、そんなことってあり得るのだろうか。
「わしゃ❝げぇむ❞なんてもんは殆ど知らんしのぅ」
「いえ、ゲームという言い方は単なる比喩で、人生というゲームを自分に有利な状態で進められるようにしたい、という願望を述べただけです」
「ふむ、なるほど」
「それが駄目なら、不労所得が絶えず貰えるようにしてほしいです」
「いやもう、随分俗物的というか欲まみれというか……」
「神様に遭遇なんて人生に二度とないチャンスなんですから、欲にまみれずなににまみれろと言うんですか?」
「まぁそれも一理あるか……」
 神様は私のような平凡娘に簡単に説得されてしまうくらいにはチョロかった。
「で、その強くてなんとか、というのをして、どんな世界にどんな自分で行きたいんじゃ?」
「強くてニューゲームですね。
 えっと、まぁよくある異世界転生ものみたいに、チートな能力を持って生まれたいですね」
「……チーター?」
「それ絶対に動物のニュアンスで聞いてますよね?
違います。それはチートとはこの場合、人生の舵ををいい方向にきるために必要で重要な、特別な才能や能力のことです」
「言葉の進化が凄まじすぎてついていけんのぅ。Z世代恐るべし……」
「いやZ世代って言葉知ってるならこのくらいも知っててよくないですか?」
「手厳しいのぅ」
 ぶつぶつと小言を呟く神様。
 ……神様なんだよねこの人?? 実は神様のふりした俳優だったりする?? ワンチャンその可能性もあるかもしれない??
「まぁその、あれじゃな。
 分かった。強くたくましいチーターになってサバンナの主になりたいと、つまりそういう訳じゃな」
「いや待って、全然1ミリも掠って無ぇんだわ」
「案ずることなかれ。わしに任せておけば全て安心じゃ」
 彼の不安しかない一言とともに、私の身体は、神様の後光と同じくらいまばゆい光に包まれた。
 そして私は、サバンナの大地で力強く屈強なチーターになった。まじで神様ふざけるなと心底思ったのは最初だけで、サバンナのカーストの中ではかなりの上位に食い込ませてもらえたことで、存外悪くない人生(……というかチーター生)を送ることに成功した。飢えることもなく、他者に馬鹿にされることもない。人間の頃よりは気楽に生きられている。
 でも、もしもまた神様に会うことができたなら、お礼とともに全力で一発パンチをお見舞いしたい。
「確かに強くてニューゲームだったけど、違う、そうじゃない……!」と。

***
執筆時間…30分くらい

めちゃくちゃどうでもいい感じのゆるゆる小説になりました。たまにこんな感じのお馬鹿なノリも書きたくなります。

7/27/2024, 11:42:58 AM