あやや

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 注意
 ・めちゃくちゃキモい


 プレゼントをあげようと思う。
 わたしは棚に置いた小さい段ボール箱を取り出して、中身をあらためた。何にも入っていない。当然だ。何にも入っていない状態でここに置いていた。
 次にハサミを取り出して、また箱を覗き込む。底は抜けていない。綺麗とは言い難いが汚すぎるわけでもない。そうして、自分の真っ黒い髪の毛を手のひらで全てとって、ハサミのグリップを開いた。二つ、刃の間に伸ばしていた髪の毛を挟んで——
 ジョキン。
 音を立てて髪が切断されて、ボトボト、ハラハラと箱の中に落ちる。わたしは無駄にするまいというように角度を変えて髪型を色々整えた。
 そうして箱の中身が髪の毛で埋まってしまったので、わたしは段ボールのフタを閉めた。そしてガムテープを何枚か破って、空気が入らないようにきちりと口を止める。
 他には何もしない。差出人だとかを書かない。住所も書かない。
 わたしはその小箱を、戸棚から出した紙袋に入れて、肩から下げた。そして玄関へと向かい、靴を履く。カツカツと確かめるように踵を鳴らし、ドアを開いて、部屋を出る。
 カツカツカツカツ靴音を鳴らしてエレベーターから降りて、マンションから出て、ちょろちょろと人を見かける道を歩いていく。
 ガードレールを隔てている川に目をやって、落ちたらどうなるんだろうと取り止めもないことを考える。しかし落ちたとしても膝まで濡れることさえなく、ただ不快な思いをして、上がる方法に思いを巡らせるだけになるだろう。
 だから、次は落ちてしまった時に上がる方法なんかを考えながら横断歩道を渡った。古い一軒家が何軒もたっていて、そのお向かいの道路はまだ川に沿っている。
 そこを歩きながら、人に助けを求めるだとか、服を破いて縄状にするだとか、くだらないことを考えてみる。
 しかしこの道には自分以外に今は誰も通っていない。辺鄙な感じの道で、面白みのない道だ。結局そういうところが住むには良しなのだろう。
 川に途中で橋がかかっていて、ああここあたりで曲がらなければと思い出した。わたしは車がさほど通らない道を横断歩道などなしで駆け足で渡って、古い一軒家たちの間の道へと進んだ。
 ここからは近いものだ。少し先を行って曲がって、その左手に家がある。
 浮き足立つわけでもないが、寒さに耐えかねて駆け足で道を曲がった。すぐ家が見えてくる。綺麗めの一軒家だ。
 わたしはその家の前に立つと、表札の下にあるインターホンを押す。
 ぴんぽーん……
 返答はなく、ただかちゃりとドアの鍵を開ける音がして、わたしはドアへと寄った。ノブを回してドアを開けると、例年の通りその人がいた。部屋の中からは暖房の暖かい空気が流れてわたしの顔を撫で、そのせいで余計に風の当たらない下半身が寒く思えた。
 その人はわたしの姿をみとめて頬を緩ませ、紙袋を見た。
「いつもありがとう」
 その人がそう言ったので、わたしは気にすることはない、これはただのプレゼントだ、だとかそんな類のことを言った。
「一つ今いただいても?」
 もちろん。ただ、ガムテープを外さなきゃダメですよ。
「もちろん構わないよ。じゃあいただくね」
 その人はもはや無遠慮に段ボールのガムテープをベリベリと剥がして、中をぱかりと開けて、中の髪の毛を数本摘み上げた。
 そしてそれを開いた口の中に迎え入れる。十数回の咀嚼の後ごくんと喉仏が動いて、つまり髪の毛を飲み込んだのだとわかる。
「ああ、やっぱりクリスマスはこれがなきゃね」
 喜んでもらえるとやはり贈った側も嬉しいというもの。顔が綻んで、にこりと笑ってしまう。
「せっかくだし、君もうちで夕食はどう?」
 それはいいですね、じゃあお邪魔します。
「いえいえ、遠慮せず」


“プレゼント”

めちゃくちゃキモいよな ごめんなさい
 

12/23/2023, 2:45:40 PM