私の隣を歩く彼は自転車を押している。
彼の顔は楽しそうだがどこか寂しげだった。
1か月前。急に
「俺、転校するんだよね」
と打ち明けられた。別に彼と付き合っている訳では無いが、とても悲しかった。小学校からの仲で、隠し事も無かった。彼の前だと自然体でいることが出来た。
「そっか。」
そう一言彼に言った。あまりにも悲しくて、これ以上話を続けることが出来なかった。
自転車を押す彼の顔には陽があたり、すこし頬が火照っている。この街にいる最後の日だというのに、話している内容は思い出話でもなんでもなく、「昨日のテレビがどう」とかそういった話だった。
しばらく歩いていると分かれ道に着いた。彼と私の家は別方向にある。
「じゃあここで。」
「うん。」
「あのさ。」
「何?」
「…ありがとな。俺と仲良くしてくれて。」
彼から発せられた言葉は、彼の口から初めて聞く言葉だった。
「お前と仲良く出来て良かった。」
私は涙がこぼれそうなのを必死にこらえた。最後ぐらいは笑って送ってあげたかった。
「お前なんで泣きそうになってんの」
ふふっ、と笑いながら言った。
私は彼のその言葉で涙が溢れた。
「泣くに決まってるでしょ!だって私たち友達だもん!」
「俺死ぬわけじゃないんだからさ」
彼は笑ってそう言った。
「じゃ、またいつか会おうな」
「うん。元気でね。時々はこの街に来てね」
そう言って彼は自転車を押していった。
分かれ際、彼は後ろを振り返って満面の笑みで私に向かって手を振った。
悲しくて寂しいけれど、この世界からいなくなるわけじゃない。いつかまた会える、そう思って私は帰路についた。
9/28/2024, 3:36:25 PM