「お腹減ってない?」
「…キスの後の言葉じゃないと思うけど?」
彼が笑顔を見せる。
「やっと繋がった」
彼女が満面の笑みを浮かべると「私も嬉しい」と声を出す。
ギュッと抱きしめ合うと彼がそのまま自分の手を引っ張り立ち上がらせる。
「あそこにさ、美味しそうなCafeあるじゃん!?」
「あーあるね!」
そこに見える海の家だろうか?
小さなCafeが見えていた。
「せっかくだし海見ながら食べようよ!」
「ん?いいけど」
「俺買ってくるからそこに居てよ!」
「あ!わ、……行っちゃった。行動力ほんと早いんだから」
彼女がクスッと笑いながらまた海を見直す。
ただ静かに、
ただ一定のリズムで波の音が聞こえる。
他は何も…聞こえない。
後ろを振り返るとそこには彼の姿も見えなくなっていた。
何だか急に不安に陥る。
さっきまで隣にいた彼がいなくて。
離さないと言ってたその声も何も聞こえない事に
物凄く不安が訪れていく。
「ね…私1人…寂しいよ…」
人間というのは単純なものだと痛感する。
つい今朝まで私は自分の力だけで前を進んできた。
仕事も決して上手くいっている訳ではなくて
ギリギリの生活をしながらも…
必死に日常にしがみつくのが精一杯で
彼を想う一方的なその気持ちさえも押し殺してまで
一生懸命に『1人で生きてきた』。
なのに…彼に『好きだ』と言われて。
彼が傍にいると知ってしまった今
自分だけの世界じゃなく、二人の世界になってしまった。
離れる事が、こんなに…寂しいと感じるなんて。
体育座りになるとその足に顔を押し当てる。
そのままゆっくりと目を閉じる。
何も聞こえない…その静けさの中にどうか
砂を踏む音が聞こえるように…と願うように。
episode 『bye bye……』
3/22/2025, 2:29:00 PM