霜月 朔(創作)

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『桜の下には死体が埋まっている。
桜の花が美しく咲くのは、
その木の下に、死体が埋まっていて、
養分を吸っているからだという――。』



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貴方は、現し世と戦い、
酷く傷付いていました。
この腐り果てた世の中を、
睨み据える、その瞳が、
何れ程、美しかったか。
私だけは、知っていました。

ねぇ、もう良いでしょう?
冷たい朝も、
無為なる昼も、
虚ろな夜も、
貴方に相応しいものでは、
ありません。

だから、ここまで来たのです。
この桜の木の下まで。
咲き誇る薄紅は、
幾つもの命を吸い、
その花弁に、静かな美を宿す。
だからこそ。
貴方に、似合うと思ったのです。

私の手は、
躊躇う事も、迷う事もなく、
震えてさえ、いませんでした。
何故なら、貴方は、
微笑んでいましたから。

だからこれは、
優しさではなく、欲望なのです。

貴方が、あの影を想い出さないように。
貴方が、誰にも渡らないように。
貴方が、この世の毒に触れないように。

共に堕ちてゆくことが、
救いではないと、
誰が言えるのでしょう。

貴方が、私の刃を、
拒まなかったことを、
私は赦しだと、
勝手に信じました。

冷たい土の中で、私の腕が、
貴方を抱き締め続けるでしょう。
誰にも邪魔されず、
誰にも奪わせず。

春の風が、そっと頬を撫で、
頭上では花びらが、
雪のように舞っています。
惜しげもなく、ひらひらと。

来年も、この桜は、
きっと美しく咲くでしょう。
……貴方という、
たった一つの養分を受けて。


4/4/2025, 6:39:14 PM