色野おと

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テーマ/ブランコ



私の齢は60歳に到達する3年手前。
そんな歳の私でも、ブランコを見かけるとつい乗りたくなる。幼いころから好きな乗り物だった。初めて乗ったときのことを、オトナになっても夢に見ることがあるくらいだ。その夢には決まって母親の印象というか雰囲気がつきまとっていた。……母親との思い出でも夢に見ているのだ、というくらいに思っていた。

「なんでそんなにブランコが好きなの?」
と聞かれたことがあった。そのときはなんでだろう?と深く考えたことはなかったけれど、そう聞かれてストレートに思ったことは

〝空に吸い込まれるくらい高く漕ぐのが気持ちいい〟

そんな感じ。……なのだけれど、もう何年も前からなんだか心に引っかかるものを感じていた。なんでこんなにブランコが気になるのかと。

7年ほど前に、東京の自由が丘にある有名な占い館で鑑定してもらったことがある。そのときに

「あなた……小学校へ入る前、特定は難しいけれど、そのくらい幼かった時期に家族以上に想い慕っていた歳の近いお姉さんのような人がいたでしょ?」

と言われて、ドキッとした。
私は一人っ子だったから、まるで兄弟姉妹のように近所の子供たちとよく遊んでいた。その中でも一番仲良かったのが2歳年上のヒサコ姉ちゃんだった。

「二人でよく一緒にブランコに乗って遊んだりしてますよね?イメージとしては、二人で抱き合うくらいの近さで何かに乗って揺れている感じを受けたのですけど……」

そう言われて思い出した。
どうして忘れていたんだろう……何かきつく閉じていた蓋を開けたときのように昔の出来事が飛び出してきた。頭の中でグルグル、グルグルと螺旋を描くかのように。


そうだった。
私が初めてブランコに乗ったのは、ヒサコ姉ちゃんの膝の上に座って、後ろから片腕をまわして私をしっかり抱きしめてくれながら漕いでもらったんだ。

確か、そこに母親が血相を変えてやってきて
「ヒサコちゃん!落ちたら大ケガするでしょ!」
みたいなことを言って、ヒサコ姉ちゃんを叱った……

漕ぐのをやめて、しばらく私を後ろから強く抱きしめて

「ごめんね。もし落としたりしたら大ケガさせちゃうところだったね……」

と言って……そしたら、私の頬に雨が当たったんだ。でもそれは雨なんかじゃなくてヒサコ姉ちゃんの涙だった。ヒサコ姉ちゃんの泣いている顔を見たら、私も悲しくなって一緒に泣いたんだ……ヒサコ姉ちゃん悪くないのに。楽しかったのに。

そんなことがあっても、その後も親には内緒で私はヒサコ姉ちゃんと一緒にブランコに乗って遊んだんだった。

空は青くて眩しくて、そんな空に吸い込まれるくらいに漕いで、そのときのヒサコ姉ちゃんの笑う声も、私には心地良かったんだ。

2/1/2024, 2:52:43 PM