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「あなたの中に届かぬ想いはありますか」

ゆるいゼリー状の空気が停滞する白い春の午後
国語の先生はそう言った

30人いる生徒のうち
聞いているのは多分私だけだった

だからだろう
私はまさに自分に
問いかけられているような気持ちになったのだ


「私はあります」

先生の落ち着いた声が少しだけ裏返った

「あなた、ありますか?
あるなら口にした方がいいです
届けた方がいいです
私たちには口があり、思考があります
しかし時間はありません」

いつもは寡黙な国語の先生が
こんなに早口で喋っているのを私は初めて見る

「届かぬ想いはやがて腐り、
後には取り返しのつかない死骸だけが残ります」

そう 言い終わった先生は
ゆっくりと目を閉じた

その数秒の沈黙
教室の空気が完全に固まったように感じられた
永遠とは、このことだと思った



その次の日から先生は学校に来なくなった
他の先生が鬱病だとか、
なんだとか騒いでいたけれど
それっきり先生を見ることは無く

私はふと、
好きだった女の子に告白してみたが
その反応は芳しくなかった
正直後悔した
でも心の中で腐らせるよりは
ずっとマシだと思った

4/15/2023, 12:20:31 PM