探偵事務所に勤め始めて早五年。
事務員兼実地調査員から肩書きが変わることもなく、
ドラマのような殺人事件に行き当たることもなく、
猫探しとお年寄りの御用聞で日銭を稼ぐばかりである。
「しゃちょーう。もうちょっと給料上がりません?」
「バカいえ、俺だってカツカツだよ。
誰だ?こないだの猫探しで不法侵入したのは。
菓子折り持って謝りに行ったおかげで、
こっちは収支マイナスなんだよ。」
「そうは言っても、ここ最近の依頼、
蹴ってばっかじゃないですか〜。」
「うちはな、犯罪に加担しそうなのは受けないのがウリ
なんだ。というか、依頼人の個人情報に聞き耳立てて
んじゃねぇ。」
バインダーの角が降ってくる。
強面も相まって、職質かけられまくってる癖に!
暴力反対と騒げば、更に書類の山が降ってくる。
「そんなに暇でしょうがないなら、暇つぶしできる仕事をやるよ。」
「いらねぇっスヨ。なんすか、これ。」
「空き家の調査依頼。
大手不動産屋がこの辺の放棄されてるを探してんだとよ。ほら、隣町に新しいモールが立つだろ。駅も近いし、ベッドタウンにするんだとさ。」
「ほー。つまり?このクソ暑い中?外?」
「ご名答。働いてこいよ、名探偵。」
ずっとうだつが上がらない毎日が続くと思って疑わなかったのだ。
空き家の真ん中に、上等な毛並みのアリクイを見つけるまでは。
6/17/2023, 3:16:47 PM