かたいなか

Open App

星が溢れる。今日も今日とて、なにやら難しそうなお題ですね。

困った時の、童話頼みなおはなしです。「都内にそんな神社無いよ」は気にしない構えのおはなしです。
最近最近、都内某所の稲荷神社に、不思議なお餅を売り歩く、不思議な子狐が住んでおりました。
稲荷神社は森の中。あっちこっちに木が生えて、あっちこっちに花が咲き、あっちこっちで山菜や、キノコがポコポコ出てきます。
そんな稲荷神社の中に、春一番、フクジュソウの大きな花畑が、パッとできあがる場所があります。
これは、そのフクジュソウの早起き組、フライングチームが、花を咲かせた時期のおはなしです。

「咲いた、咲いた!今年もさいた!」
稲荷神社の社殿のそば、正面向かって斜め右よりの、お日様がポカポカ当たる広場で、
今年も春の妖精が、春の儚い告知花が、20も30もある黄色い花びらを、傘かパラボラアンテナのように、力いっぱい数輪だけ、綺麗に広げておりました。
「おっきなお星さま、あぁ、キレイだなぁ!」
これから顔を出すであろう、いろんな色や形のフクジュソウを、子狐は思い出し、跳ねまわります。

今年も春が、始まるのです。
今年もあの花畑が、去年より少し大きくなって、この場所に現れるのです。
茎を長く出すフクジュソウ、短い花びらのフクジュソウ、長い花びらのフクジュソウ、たまに見つかる白やオレンジのフクジュソウ。
まるで夜のお空のお星さまが、朝昼の間ここに来て、ぎゅうぎゅう、溢れてしまっているような。
あの花畑が、始まるのです。

今年も多くの人間が、パシャパシャいうカメラと一緒に、あるいは同じ音で鳴く板を片手に、この稲荷神社へ来るのでしょう。
今年も多くの人間が、お賽銭して、ガラガラを鳴らして、祈りを願いを嘆きを決意を、稲荷神社に託すのでしょう。
「でも、一番星は、渡さないんだ。一番星は、だれにも、渡さないんだ」
今年最初のお星さまを、フサフサ尻尾で囲い込み、子狐はにんまり幸福に、そこでお昼寝を始めました。

3/15/2023, 11:50:47 AM