書いた覚えのない私直筆の手紙。それを渡してきた知らない男子。
謎めきすぎて何がなんだかわからない。
よし、甘いものをヤケ食いしよう。
そう決意したものの、学校の近場では手ごろなお店がないし、あと見られたら恥ずかしい。だからちょっと遠くにあるあの喫茶店に行くことにした。
結構前に教えてもらった穴場の喫茶店。
誰に教えてもらったのか忘れちゃったけど、ご飯もスイーツも美味しくてお財布にも優しいからちょくちょく通っているとてもいいお店。
たった一人で切り盛りしてる女の店主さんのことがわりと好きだし、ここでバイトしてもいいかな? とちょっとだけ思ってる。
まあお店のことはさておいて。食べたいものをとにかく頼んでバクバク食べていると、ガラス越しに私を見ていた中学生くらいの男の子と目が合った。
この子、まさか!
私はガラスにへばりつく勢いでその子をまじまじと見る。
確か、そう……名前は……
「……竜くん?」
そう言うと彼はとてもびっくりした顔をして喫茶店の中に急いで入ってきた。
嬉しそう……だけどどこかぎこちない笑顔を浮かべて私の名前を呼ぶ。
「紫音……さん」
面識はないはずなのに、知ってる、知られていると思えることがとても嬉しかった。
そんな私たちを見て、なんだかワケありだと察したのか店主さんはバックヤードに行くかと提案してきたけど竜くんはそれを断った。
「見せたいものが家に……あった、はず。おれの思い違いじゃなければ……
また忘れても困るし、すぐ来て!」
グイグイ私を引っ張る竜くんをなだめて、お会計を済ませてから喫茶店を出る。
数歩歩いたところで竜くんの名前を呼ぶ声が聞こえて思わず振り返る。
そこには安心したように笑って私たちを見つめる黒渕くんがいた。
『どんなに離れていても私たちの絆は不変だと信じている。
だから忘れないでくれ。私という男がいたことを』
懐かしい声が耳の奥でリフレインする。
そうだ、あなたは私にいつも笑いかけてくれた。
……ああ、どうして忘れていたんだろう。
私の一番大好きなあの人のことを。
【忘却のリンドウ 09/16】
4/26/2025, 1:38:02 PM