目が覚めるまでに。
目が覚めるまでに、一人の人を自分勝手に振り回した。今はもうその鮮やかな記憶自身がトラウマと化しては思い出せないが、その自分勝手に付き合ってくれていた彼女の優しさに漬け込んでは青春を送っていた日々は本当に楽しかったんだと思う。
目が覚めるまでに、定期的に彼女の夢を見た。母校の、自分の教室の、休み時間にロッカーの端で二人話す夢。最初はぎこちなかった会話も、段々昔のように弾んでは自然と仲直りする夢。或いは一度二人で行ったことのあるゲームセンターで、二人でしたことの無いメダルゲームを楽しむ夢。或いは、或いは、すぐに消えたけれど、ある日突然彼女が夢の中に現れたと思えば何事も無かったかのように二人楽しく話す、そんな夢。
目が完全に覚めきるまでに、二年半もの月日を要した。
とっくに彼女は俺のことなど眼中にも無かった。
冷たすぎて優しささえ垣間見える文書、付かない既読。一行考えるのに平均三十分の努力と思い出せない記憶を引っ張りだす作業。無駄だったとは、思わない。思えない。思ってしまったが最後、過去の私が最高に報われない。
弱すぎた。
強かったけれど。
進学して心の余裕が出来て、やっと昔の私を俯瞰して見る時間も出来て、衝動的に考えた純粋な謝罪はきっと、彼女にとっては毒だった。
分かっていた上でやった、自己満足の塊だ。
成人式の日に再び会ったとして、中学の先生が言うように連絡先を残しておいたとして、それが大きな伏線になるかなんて今の俺には到底分からない。まだ子どもなのだ。甘えていられる。
明日、近くの神社に行こうと思う。
意味は無い。疎遠になったあの日から、私が敢えて距離を取った理由から、ずっと彼女には報われて欲しかった。今の俺でもそう思い続けている。私が隣に居ても迷惑をかけるだけだと、彼女の善意を無下にした。その根本には彼女自身の生い立ちと今までのこと、その時近くにいた友達のこと、色んなことが絡んで、離れた方が幸せだと思った。
俺が彼女の近くに居たら不幸せにさせてしまう、なんてことは思ってないけれど、
俺が彼女の視線の先に立ってはならないとは、正直思う。
自己満足自分勝手自己中心的承知で。
幸せになって欲しい。
自分を分かってくれる異性に出逢って、結婚して、子どもを産んで、子ども嫌いがマシになって、四苦八苦しながらも一人前に育てて、孫に恵まれて、幸せに看取られる。
そんな世間一般的では普通で幸せな生活をのんびり暮らしていってほしい。
もう彼女の声も匂いも姿も全てが不鮮明な、何処までも我儘な俺のことなんて忘れて、全部忘れて暮らしてほしい。
あと卒業アルバム見ないでくれ。
明日神社に行ったら、俺は一人で、ひっそりとこう願おうと思う。
彼女がこれから人に恵まれて今まで感じた負の感情を忘れてしまうほどに報われますように。
8/3/2023, 10:55:23 AM