めぼしい衣類を詰め終えて立ち上がったら、脇に重ねられた本が雪崩た。僕はまたため息をつく。
「ゆっくん、また!ㅤ幸せ逃げるよ?」
とたしなめる笑い声が聞こえる気がした。
崩れた本たちを、適当に積み直す。『ハイデガー入門』に『空の名前』、そのそばには『スプートニクの恋人』。『地球の歩き方』やファッション雑誌もあった。なにかの基準で積んだのかもしれないが、多彩すぎて分からない。
雑誌には見覚えがあった。しわくちゃになった表紙を指先で伸ばす。初詣の帰り道、立ち寄った本屋で君が買った『今年の星占い特集』だ。
思わずページを繰ってみる。うお座の健康運を斜め読みしたけど、期待した未来は書かれていなかった。食べ物に気を使えとか睡眠を大切にしろとか、んなもん全部あいつは守ってんだ。
めげずに自分の星座を見た。紙面は、労いの言葉で溢れていた。これまでの努力がとてもいい形で報われます、と。必ずしも現状を知って書かれた言葉ではないはずなのに、鼻の奥がつんとした。
もしかして、良い運気をもたらす星を僕は追いかけていられたのだろうか。
派手な表紙のその雑誌を、着替えの詰まった紙袋に僕はそっと滑り込ませた。不思議なほどすっと心に入ってきた運気を、なんとしても君と分け合うと決めて。
『星を追いかけて』
7/22/2025, 8:34:17 AM