1件のLINE
ピロン…この音が鳴れば私は赤い傘を持って急いで待ち合わせ場所へ行くの。
私を待ってくれている、そう思うだけで胸がキュンって苦しくなる。だから私は、無意識に小走りになる…
彼と初めて会ったのは、梅雨入りから始まって3日経った頃だった。
あの日私は、大学で高校生から付き合っていた同い年の彼に振られた。浮気されたのだ。私はずっと、ずっと好きだったのに彼は年下の女の子…と。自分の何がいけなかったのかを考えては泣き、考えては泣き。の繰り返しを空き教室でしていた。私は浮気されたショックから、本当はその日早く家に帰ることが出来たのに、泣いていたために2時間程度遅くなってしまった。
大学から出て、トボトボ駅に向かっていると
ポツ…ポツ……ポツポツポツ…ザァー−
「えっ?…嘘でしょ…?」
私は急いで、近くのお洒落な喫茶店に雨宿りがてら入った。
カランカランッ
「いらっしゃいま…せ。おひとり様ですか?…」
店員が途切れ途切れに私に尋ねるのは、きっと私の顔が涙の跡と急な雨でグチャグチャに見えるからだろう。なんせ、彼と会うときはいつもバッチリメイクだったから…
「はい…。」
そう答えれば、店員は窓際の二人席に私を案内した。
「ご注文がお決まりましたら、そちらのベルを鳴らしてください。」
そう説明してからすぐに姿を消した。私は、わざとみんなが目の前を通る大きい窓がある席に案内したのではないか…そう考えたら
「はぁ…」とため息が出た。
別に頼むものもないしなぁ…なんて考えていると、他のお客さんが入店して来た。私はハンカチで顔を隠しながら、メニューを見ていたら。
店員が「相席よろしいでしょうか?」と聞いてきたので、そんなに客はいなかったと思うけどなとハンカチから少し顔を出しあたりを見回すと、ほとんど満席だった。そんなにも時間がたっていたのか…と思い、
「あと少ししたら出るので、どうぞ。」
と、承諾した。目の前に座ったのは優しそうな雰囲気で眼鏡をかけて、いかにも頭が良さそうな本を持っていた男性だった。かっこいいなぁ…なんて思っていたら男性が、
「なんで、ハンカチで顔を隠しているんですか?」と聞いてきた。私は、顔がグチャグチャなので…と答えると、男性は「う〜ん…」と考えてから本を置いて、私の目の前にあったメニュー表を窓側に立てて、頬杖をついてグイッと私の方に近付き
「女の子はみんな綺麗なんだから、勿体無いよ?」
と言って、私のハンカチを優しく取ってきた。顔が露わになると、
「大丈夫だよ。僕しか見てないから」と言い、優しく私に微笑みかけた。つられて私も微笑むと彼はその後私をたくさん褒めてくれたり、私が笑顔になるようにしてくれた。
雨が小ぶりになったときに私は帰る準備をしていたら、彼が「連絡先の交換をしてほしい。」と言ってきたので、快く承諾すると「じゃあ、お礼に…3つ年上の先輩からのお礼。」と言い私に赤い傘を貸してくれた。
店を出ると、雨は止んでいたが"3つ"年上の先輩が貸してくれた傘を使って帰宅した。
「年上かぁ…」そんな事を考えているときには、私の心は青空のように心地よかった。
…あの日初めて逢って、たまたま同じ席になった3つ年上の彼。大学も違うし、頭の良さも違う。だけど、あのとき私は彼といて楽しかった。だから、彼からのLINEが来たら、赤い傘を持ってあの喫茶店に向かうの。
…僕があのとき彼女に話しかけたのは、”一目惚れ"の他ならなかった。だからいつもはあんまり人に話しかけないけど、頑張って話しかけて連絡先も聞いた。彼女が店を出るとき僕は思わず
「可愛いぃ」と声に出た。恥ずかしくて、顔が赤くなるのを感じて、しゃがみこんだ。
僕がメールをする時には、余裕がある年上に見えるように難しそうな本を読んでるふりをして君を待ってる。
7/11/2024, 11:38:39 AM