【たった一つの希望】
「以上で手続きは終了です。最後に一つ希望を聞きましょう。しかしあなたは徳を積んだのですね。次も人間に生まれ変われるなんて」
私は死にそうである。
毎日ただ生きているだけで、体の不調や仕事のストレスが次々と発生する。
痩せ細った体は今にも折れそうなほどの脆弱さを保っており、30年近く変わらぬのだから私は変化がどうも苦手らしい。
もっと筋骨隆々で精神的にタフでなにがあってもへこたれない。
ついには周りに対しても気がきき、いつもにこやかで華やかである。
贅沢を言えばこんな人間でありたかった。
だができないのだ。
人は生まれ変わるときに一つしか希望を叶えてもらえぬ運命なのである。
暴発しそうな仕事のストレスを抱えながら帰路に着く。
「おかえり~」
笑顔で迎え入れてくれる娘の顔は、世界が平和であるかのようになだらかだ。
あたたかな空気は、凍てついた私の体をほぐすように包み込む。
私は大金持ちにはなれないだろうし、起業して世界トップレベルの会社の経営はできない。
多くの友人には恵まれないし、切れ者と呼ばれるような頭脳はない。
私は不治の病のような体の痛みとも戦うし、仕事のストレスは働いている限り消えはしない。
考えうる限り、私の理想の姿とは程遠い現実がそこにはある。
そんな私が生まれ変わるときに願ったのは何だったのだろう。
きっとそれは「平凡な幸せ」だったのかもしれない。
そんな言葉を選んだ私も捨てたものではないな。
3/2/2026, 1:05:16 PM