ポンッと軽い力で押しだされた。
視界の端に映った顔はいつも通りの穏やかな笑顔だった。それにつられて笑おうとしたけど、なんでだろ、頬が引きつって笑えない。
ガツン、ガツン、ガツッ、ガンッ
人体からしてはいけないような音と激しく回る視界に思考が追いつかない。身体中が痛いし、鉄錆のような匂いがまとわりついてきて鬱陶しい。
こんなことよりも笑わなくては。姉さんが笑っているのだから笑わなければ。ああ、何もみえない。耳鳴りが酷くて姉さんの声が聴こえない。
「お姉ちゃんはね、あなたのことが大好きなの」
優しい陽だまりのような匂いが微かに香った。
よく知る姉さんの香りだ。目も耳も役に立たないから確認もできない。動かしているはずの腕や足も激しい痛みで麻痺してしまって本当に動いているのかすら分からない。
でも、あの優しい姉さんなら、側にいるはずだ。
「可愛さ余って憎さ百倍、頭のいいあなたなら分かるでしょ」
ごめんなさい、姉さん。心優しいあなたを悲しませてしまう僕を許して。きっともう姉さんとともに生きることはできない僕を許して。
「お姉ちゃんのために死んでくれてありがとう」
【題:裏返し】
8/22/2023, 1:17:51 PM