影が伸びる程に明るい月明かりと視界いっぱいに広がる満点の星空。幼い頃から見慣れたそれらが、実は極上の贅沢だったと知ったのは大人になり地元を離れてからだった。
都会の夜は明るい。例え深夜でも灯りが消える事は無い。街灯は勿論、信号も自動販売機も多くそれだけでも道行くのに困らないのに加えて深夜営業の店の明かりに爛々と主張する看板。そんな街の明るさに比例して夜空は暗く狭い。月の明るさは実感が薄く星はまともに見えやしない。
地元も今住まう土地も、同じ国の空の下というのに目に映る景色はこんなにも違うのかと軽く衝撃を受けたのを覚えている。今だって、あの空の奥にはあの頃見上げた星空があるはずなのに。
身近過ぎて気付けなかった贅沢。私にとっての息を飲むような星空と同じ何かはきっと誰もが持っていて、でもそれに気づけるのはひと握りなのだろう。
それを知ることが出来た私は幸運なのだろうか。少しの寂しさを感じつつ星の見えない空を見上げる。
その奥に確かに存在するあの星空を想って。
2023.07.06朝「星空」#08
7/5/2023, 9:35:30 PM