雪だるま

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「、っしょ、と…」

 窓際の椅子に座り、外を見るともなく眺めていると昔のことを思い出す。
 君と最期に会った日から、もう長い年月が過ぎた。あの頃の僕は、父がいなくなって生活も苦しく、自分はなんて不幸せだろう、と思い込んでいた。だが今になって、あの頃の僕がいかに幸いであったかが身に染みる。
 大人になった僕は父の跡を継がず、君の好きだった星を見て過ごした。そんな日々の中で、僕は多くの新たな発見をし、そのために色々なものを発明した。いつか再び、あの日銀河に消えた君に逢うため、研究に勤しむのは楽しかった。

 今、この国では空を見上げても星は見えない。窓越しに見えるのは、どこまでも続く温度のない灰色と、時折上がる焔の赤だけだ。私の心を満たしてくれるものは何もない。かつて私が発明したものは、そのほとんどが戦争に利用され、今では私の手を離れてしまった。愛する家族は私と共にここに軟禁され、私はそのために軍事開発に従事させられている。

 あの日君が持っていた星座早見は、今では何の役にも立たない過去の遺物と軽んじられている。その原因は他でもない、私の発見と発明だ。私が最先端の発明をする度に、君との思い出は静かに強く否定されていたのに、愚かな私は気付かなかった。やっと気が付いたときにはもう取り返しがつかなかった。

 あの日、君は命を懸けて僕の幸いを願ってくれた。でも僕はどうやら、幸いにはなれないようだ。

(窓越しに見えるのは)

7/1/2023, 10:14:15 PM