【月に願いを】
夜空には黄金色の満月が輝いている。それを飾るように白銀の星々が天球を覆い尽くし、キラキラと煌めいていた。
私にとっては見慣れた夜の風景。だけど君から送られてきた写真には、星の光なんて全く写っていなかった。
大学進学を機に、村を出ていった君。賢く社交的で優秀な君なら、ネオンの光に照らされた都会の街でもきっと上手くやっているのだろう。
頭ではそうわかっていた。それでも願わずにはいられない。どうか元気でいてください。傷ついたり悲しんだりすることがなるべく少なくあってください。……もし可能ならば、私のことを忘れないでいてください。
(ワガママだな、私は)
故郷のことなんて思い出す暇もないほどに楽しく過ごしていてくれれば良いと願うのに、それと同じくらい私のことを思い出して寂しくなってくれれば良いと願っている。どうしようもなくズルい人間だ。
星々の見えない都会にも、月の光は届く。君のことも私のことも平等に見守ってくれているはずの艶やかな満月へと向けて、私は矛盾した願いをそっと捧げた。
5/26/2023, 10:46:22 PM