しう

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…年をとると人は下を向いて歩くようになる。幼い頃は上を、若い頃は前を、年齢を重ねると下を…。
 “「いつか分かる時が来るのよ」
 なんて、ふふふ、と笑う祖母に
 「ええー」
 と、無邪気に不満の声をあげていた。”
その言葉が分かるようになったのはあれから10数年たった頃。その時には既に祖母とは言葉を交わすことは出来なくなった後のこと…。
 そして、気付いたら下を向けるのになかなか上は向けないことも分かってきた。
 「ねえねえ、あれなあに?」
 無邪気な声。さほど大きな声ではないのによく響く。
 「え?」
 自分に向けられたものではないのにその声の主にふと注意が集まる。本人は気にする様子はない。
 「あれはねえ、渡り鳥よ。遠くのお国まで飛んでいくの。」
 お母さんだとおもわれる女性がこたえる。
 正直、鳥に詳しくない私にはなんの鳥かは分からない。
 「そっかあ、頑張ってるんだね!」
 と、言ってその子は走り出した。
 「あらあら」
 どこからか、聞こえてくる笑い声。その声と、一緒に微笑みながら、私も渡り鳥の飛んでいる方向をしばらく見つめると、ばしっと頬をたたき、気合いを入れ直し、前を向き、歩き出す。もちろん、鳥のようにとはいかないけど、私らしく歩いて行こうー

8/21/2023, 11:43:01 AM