テーマ『初恋の日』
彼女と一緒に居ることは僕にとって『あたりまえ』だった。
家族ぐるみの付き合いで、赤ちゃんの頃から遊んでいた僕らは小学生になってもずっと一緒で。
だけど小学生高学年にもなれば自然と異性である僕らは離れて行き、中学生になった頃には殆ど疎遠になった。
進学先の高校は別。同じ学校であるという縁さえも完全に途切れ、今ではただのお隣さん。学校が違えば登校時間も違って顔も合わせることも無くなった。
そうして高校も大学もどこか空虚な学生生活を過ごした後、僕は社会人となり社畜のように働き始める。
そんなある日、友人が開催した合コンで偶然にも彼女の再び出会う。
大人になった彼女は昔より何倍も綺麗で、何倍も賢くて。それでも昔と変わらない所もある。そんな彼女と過ごす時間は、子供の頃の『あたりまえ』を取り戻したようで。
いつの間にか『あたりまえ』の様に一緒になった僕達は、『あたりまえ』の様に結婚し、『あたりまえ』のように子供を成し、『あたりまえ』の様に数十年の時を旅した。
そして遂に訪れる、寿命という名の最後のお別れ。男より女の方が寿命が長いと聞くが、僕達の場合は逆のようで。
僕は沢山の家族に見守られながら永遠の安らぎに着こうとする彼女の手を握る。
その手は僕と同じように昔からは想像出来ないほど萎れていて、だけど僕や子供達の面倒を見続けた立派な母の手で。
今更ながらに僕は気がつく。彼女は僕にとって『幸せ』であり、『強さ』であり、『自分自身』であり、何よりも『あたりまえ』だった事に。
生まれてから何十年の『あたりまえ』が『あたりまえ』では無かったことに。
僕は命の音がどんどんと小さくなっていく彼女に最後の言葉を渡す。
───ありがとう。愛してる。
5/8/2023, 7:40:07 AM