「文化祭の願い事」
文化祭の後夜祭には伝説が付きものだ。
文化祭の準備が始まると、中庭にツリーが設置される。折り紙に願い事を書いて好きな形に折り、ツリーに飾りつけていく。
そして、後夜祭のキャンプファイヤーでツリーを燃やすのだ。
このとき、煙が高く上がれば上がるほど、願いが叶う確率が高まる、と言い伝えられている。
『もうすぐキャンプファイヤーが始まります』
放送委員のアナウンスが響く。
注意事項が伝えられているが、真面目に聞いている生徒はいるのだろうか。騒がしい。
「なぁ、何て書いたの?」
しつこく願い事の内容を訊いてくるのは、片想いの相手である幼馴染。
文化祭前から何度も訊かれていたけど、今日は五度目だ。しつこいなぁ……
でも、言えるわけがない。
『それでは、点火します。十からカウントしますので、みなさんも一緒にカウントお願いします!』
点火のカウントダウンが始まると、それまでの騒がしさが収まっていき、数字が小さくなるごとにカウントする声が増えていく。
『さん、にー、いち……点火ぁー!』
歓声が上がり、打ち上げ花火も一発上がる。
あぁ、終わってしまう。
ここ数ヶ月間、準備してきた文化祭の、後夜祭の、クライマックス。
三年生たちが「上がれ、上がれ!」と火の周りに集まり始めている。来年の私たちの姿だ。
『もうすぐフォークダンスを開始します』
わらわらと火の周りに生徒が集まっていく。
「私たちも、行く?」
「あー、まだいいや」
夜空に向かっていく煙を眺める幼馴染の横顔に、胸がざわついた。
マイムマイムが流れ始め、輪になって踊る生徒たちを眺める。
去年は無邪気に踊っていたんだよなぁ……
今年は、なんだか少し寂しさを感じる。
「なぁ、願い事、何て書いた?」
「……しつこい」
ため息混じりに言い、立ち上がろうとすると手首を掴まれた。
視線が交わる。
「俺はさ、お前とずっと一緒にいられるように、って書いたけど、ダメだった?」
────高く高く
10/14/2024, 11:00:04 PM