“言葉はいらない、ただ・・・”
怒声、悲鳴、破砕音、それからひっきりなしに耳元をかすめる銃声音。暗くてせまい建物内での戦闘で目は使い物にならず、聴覚ばかりが研ぎ澄まされていく。滴り落ちる汗の音すら聴こえてくるような気がして煩わしい。
敵の銃弾をやりすごしながら汗を拭うと思ったよりもぬるりとした感触がして、やっと自分が怪我をしていたことを思い出した。少し前の銃撃の際、後ろの民間人を庇ってかすめた銃弾がこめかみの皮を持っていった時の痛みも今はほとんど、感じられない。アドレナリンのせいだろうか。
ゲリラ的に始まった戦闘は、こちらは民間人を守りながらの応戦で、どちらかといえば不利な状況であるはずだった。なのに、どうしてか俺はこの戦闘の中で高揚感を覚えていた。表情にも出ているのだろう、隣で一緒に戦う後輩が変な顔をして何かを言いたそうにしているが見て見ぬふりをして俺は銃を構えた。
滴り落ちる汗の音すら聞き取る耳が、微かに拾い上げた聞き覚えのある足音に、自分の口角が上がるのがわかる。多分、俺はこの時が来るのがわかっていたんだと思う。
次第に荒々しく近づいてくる足音が一瞬止まって、そしてすぐに砂利だらけの床を蹴り上げこちらへ飛び込んでくる。
飛び込んできた人影に目がいく敵に銃口を向けて引き金を引く。横に立つ後輩が、突っ立ったまま息をのんだ。ちょうど敵と俺達とのど真ん中に飛び込んできた丸腰の人間に向かって俺が発砲したように見えたのかもしれない。なんの打ち合わせも説明もしていないからそう見えても仕方ないだろう。
例外なく頭を撃ち抜かれ倒れていく敵には目もくれず死体の山の前に立つ男は、傷一つついていない純白の軍服を翻してこちらに歩いてくる。その彼の肩越しに新たに現れた敵を撃ち抜いて、俺も一歩彼に向かって踏み出した。
彼との間に言葉はいらない、ただこの高揚感を共有するだけでどんな状況でも乗り越えられると信じられるのだ。
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お題全く活かせてません:(
8/29/2024, 3:57:34 PM