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 叔母さんが亡くなった。
 長らく意識不明で入院していたので、一報を聞いても、不思議と悲しみはあまり出てこなかった。
 祭壇の写真の中の叔母さんは、元気に笑っていた。けれど、棺の中の顔はすっかり痩せていて、どこか別の人のお葬式みたいだった。



「友達に遠近両用メガネを作ってもらったら結構良くって、ついスマホ見ちゃうんだよね」
 いとこのお兄ちゃんはビールを手酌でコップに注ぎながら、相変わらずの垂れた目尻を更に下げた。

「何見てんの?」
「TikTokとか、ショート動画とか」
「45歳にもなって、若いの見てんね」
「お、そんなこと言ってるけど、もうすぐ奈央ちゃんにも老眼が来るから。メガネかけるか外すか迷う日が来るから」
 私は「えー」と言いながら、サーモンのお寿司を取ろうとして、横のマグロの赤身に箸を寄せた。何だか最近は、サーモンの脂身で胃もたれする。

 私は確実に歳をとったけれど、お兄ちゃんとは昨日会った続きみたいな会話をした。15年ぶりに会ったのに、空白を感じない。

 時間が経っても、私たちを取り巻く空気は変わらなかった。叔母さんがここにいない以外は。

9/14/2025, 2:42:01 AM