wtプラス、819プラスネタ

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諦めとか妥協とか、全部引っくるめてハハ、という声になって消えた。カラカラと開いた扉の奥から「もう閉店だぞー」という声がして、金色の頭が顔を出す「って、なんだお前か。どうした、こんな時間に」烏養は私を見てそのままレジまで降りてきた「ごめん、お店終わってんのに」「それはいいけどよ、まあ座れ」きっと何か察してくれた烏養が店の椅子に腰掛ける。「いいか」とタバコを取り出すので、小さく頷く。カチ、とライターの音と葉が燃えるチリ、という音だけが店中にこだまする「浮気されてた」ああ、もう涙は枯れたと思っていたのに、言葉にすると溢れてくる。零れてしまわないように息を止めたのに、パタパタと大粒の雨が降る。目に止まるのは自分の薬指に光る約束の証、世界で1番幸せだったのに「相手の子、妊娠してるの」烏養はどんな顔をしてるんだろう、止まらない涙を見られたくなくて、顔を上げられない「別れよう、だって。申し訳ない、だって」ロボットみたいに、あたえられた言葉だったみたいにツラツラと話せるのに、息ができないくらい苦しくなっていく「えーほんと、だっさいんだけどー」ほらまた笑えてくる。烏養は黙ったまま、鼻を掠めるタバコの匂いが妙にホッとする「まだあんだろ」俯いた頭がグッと押し込まれ、わしゃわしゃとかき混ぜられる。堰を切ったように溢れ始める、全部全部全部「おーし、泣け泣け、全部吐き出せ」

もう未練なんてないと思っていたのに、そんな顔をするな。今度はお前を攫う覚悟ができてしまう。でも今は。

それでいい

4/4/2024, 2:58:54 PM