Ryu

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この街のどこかで、誰かが泣いている。
それは、私の友達でも知り合いでもない。
ましてや、家族でも、恋人でも。
ただ、本当に辛いことがあって、堪えきれずに、大声を上げて泣いている。
それは小さな女の子や、年老いた老婆かもしれない。

その事実を知ったなら、私はどうするだろう。
いや、何もしない。
何も出来ないに決まってる。だって他人だから。
自分や家族を守るだけで、誰もが精一杯だ。
誰かを本気で救うことで、疲弊するのは自分だって分かってる。

だけど、辛くて泣いている人がいない世界であることを、心のどこかで願う気持ちくらいは持っていたい。
この街、この国、この世界で、自分と同じような感情を持った人達がたくさんいて、そのうちの何人かが想いを行動に移したとしたら、世界はどう変わるだろう。
昨夜この街で泣いていた誰かぐらいは、救えるのだろうか。

街は人を包み、吐き出し、そして育んでいる。
街のいたるところで、泣いたり笑ったりを繰り返す私達。
同じ屋根の下で暮らすのが家族なら、同じ街の中で暮らす私達はなんと呼べばいい?
何かしらの結びつきがある、でも他人でしかない。
だけどそれは、家族だって同じ。

他人だから、痛みも悲しみも自分のものじゃない。
でも、大切な人の痛みなら、何とかして取り除きたいと思うだろう。
そして、誰かが嘆き苦しむ映画やドラマを見て、一緒に涙する感情、これを否定することは出来ない。
ドキュメンタリーなら尚更だ。
画面に映っているのは、まったくの赤の他人なのに。

この街のどこかで、誰かが泣いている。
それは、私の友達でも知り合いでもない。
ましてや、家族でも、恋人でも。
ただ、それでも心が痛いんだ。
そうであって欲しくないと思うんだ。
本気で救うことは出来なくても、きっと何かが好転して、また笑顔が戻ることを願うよ。
この街のどこかで。

6/11/2024, 11:47:06 PM