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昔、母親と一緒に胎内巡りをしたことがある。

胎内巡りと聞いて、「ああ、アレね」と通じる方ならわかるだろう。

そう、アレである。

善光寺のお堂の真下、真っ暗な道を手摺りを頼りに一周するアレである。

現代日本では本当の暗闇というのに出会うことは少ない。いや、ほぼ無いと言っても差し支えないだろう。

そんな環境に普段居る為か
本当の暗闇を前にすると一切目が利かなくなる。

ちょっと先も見えない為、一歩踏み出すのも恐る恐るという始末。
私以外にも胎内巡りをする人がいるのに、気配は感じても見えないので、一人で歩いているような気もしてくる。
不思議なことに目の前に壁があるように感じたりもして、脳というのは見えないだけで無いものを錯覚させるのも好きなようだ。

手摺りの感覚を頼りに進んでいくと、金属のようなモノに当たった。

「この錠前に触れなくては駄目なのよ」

後ろから母親に言われ、私は一人でないことの安堵感に包まれながら、その金属に触れた。

眩しい地上に出て、先程のものは何だったのか母親に尋ねると、あの金属は「極楽の錠前」というものらしい。触れる事により、ご本尊とのご縁を結ぶことが出来るのだという。

胎内巡りは、擬似的な死の体験とも言われている。

何も見えない暗闇の中で死を体験し、極楽に触れて、また地上に出る。

死後の世界は知らないし、わからないけれど、
魂はこういう事を繰り返して、今に至っているのだろうか。

非現実的だけど、そうかもしれないと思わされた面白い体験だった。

10/28/2023, 10:47:17 AM