夜空の音

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ぬくもりの記憶

外から帰ってきても、部屋の中は冷え込んでいて震えが止まらない。
布団に潜り込んでも、中は冷たくて体温を奪われるようだ。
それでも、小さく丸まりながら暖かくなるのを待つ。

身体はなかなか暖かくならない。なのに、胸の奥が熱くなってくる。
息苦しい。
その熱は次第に大きく膨れて、寒さを感じなくなった。胸の痛みと息苦しさに紛らわされた。それでも、震えは止まらない。
はぁ、はぁと過呼吸のように息をする私は、なんとも滑稽だ。
頭の中がうるさい。
耐えきれず、私は抱き枕を抱きしめた。
大好きだった彼の匂いはとうの昔に消えてしまったのに、その上着を抱き枕から脱がすことができずに、今日を迎えてしまった。
「わかってたのにぃ....。」
抱き枕の頬に当たる辺りが冷たく濡れるのを感じながら、彼の匂いを求めてさらに抱き枕をきつく抱きしめる。彼の温かさを求めて、毛布の奥に潜り込む。
それでも、彼の面影はなくて、彼が私を呼ぶ声が、彼の笑い声が脳内に重なって聞こえる。その隙間を縫うように、言葉が永遠と反芻する。
『あいつ、やっと新しい彼女できたんすよ。あなたと違ってギャルなんすけどね』

今日は特段に冷え込む1日だった。
今日は特段に疲れた1日だった。
今日は、何も無かった1日だった。何も。何も聞いていない。
そう、言い聞かせる。

12/10/2025, 10:23:01 AM