いろ

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【子供のように】

 日の落ちた薄暗い生徒会室を覗き込めば、各部活からの予算申請書類をテキパキとチェックしている君の横顔が目に飛び込んできた。真剣そのものな表情は、普通の者であれば話しかけることすら憚られるほどに怜悧で鋭い。誰しもが認める文武両道の優等生さまは、家柄も良ければ顔立ちも整っていて、欠点のない完璧な生徒会長なんてクラスの子たちが噂するのもわからなくはなかった。だけど。
「ねえ、他の生徒会の子はどうしたの?」
「用事があるって言うから。僕が一人でやった方が早いし」
 いかんせん付き合いの長い身だ、今さら集中モードの彼へと話しかけることに躊躇など感じない。問いかければ視線を私へと向けることもなく、君は淡々と応じた。放たれたセリフに思わず眉を顰めて、君の手の中の書類を奪い取る。
「あのね、人を上手く使うのも君の仕事でしょ。すぐ楽なほうにサボろうとするんだから」
 やれやれとため息を吐きながら苦言を呈すれば、君はようやく私へと顔を上げた。その唇が不満げに尖っている。まったく、これのどこが完璧な生徒会長なのか、誰か私に教えてほしいくらいだ。
「うるさいなぁ。君は僕の指導役か何かなわけ?」
「はいはい、文句は歩きながら聞くからとっとと帰るよ」
 促せば不機嫌そうな表情を隠そうともせず、君は立ち上がる。まるで子供のように拗ねてみせる君のこんな姿、きっと私しか知らないんだろう。頭をもたげた仄暗い優越感を心の奥へと封じ込めて、私は君の背を押した。

10/13/2023, 10:16:59 PM