たろ

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※閲覧注意※
軽率なクロスオーバー、IF歴史にもならない代物。タイムトラベラーなモブちゃんが普通に居るよ。 何でも許せる人向け。

《真夜中》

静まり返る屋敷の中。
いつだって、静寂と深い闇に包まれた深い夜の気配に、押し潰されそうだった。
『ここへ来たばかりの頃は、怖いと思っていたけれど、すっかり慣れてしまいました。』
しみじみと思い返せば、隣で晩酌をする手が、はたと止まっていた。
「…大層な怖がりも、形無しか。」
人工物に侵食されない、本当の闇だと感じて恐ろしかったのを覚えている。
「何を恐れるのかも判らず、難儀したな。」
何でもないことを恐れて、人との接触すら恐怖だった自分に、根気良く付き合ってくれた目前の夫婦が居なければ、きっと自分はとっくに死んでいたとすら思う。
「知らない家に、急に攫われて来たのだもの。すべてが恐ろしいに決まっているじゃありませんか。」
食べるものも衣類も、人との触れ合いも言葉を交わすことすら、怯えに怯えて、夜も眠れず、気絶して眠るような生活が、今では嘘のようだ。
「こうして大人になって、お酒を交わせる日が来て…。本当に、良かったわ。」
喜んでくれている女性が、隣に座る男性の酒杯に酒を注ぐ。
「暁は、旦那様と一緒に盃を空けないでね。お酒に慣れるのは、時間を掛けてゆっくりと。焦って早まってはいけないの。」
酒器を男性との間に、水入れを自分との間にそれぞれ待機させた女性が、嬉しそうにそれぞれの手元の盃へと注ぐ。

静かな夜が、更けていった。

5/18/2024, 9:06:04 AM