友達の思い出
ぼんぼりの明かりがゆったりと灯る和室。その上座に堂々と腰を下ろす。私の着物の衣擦れの音だけが、静かに聞こえた。
今日はここに、待ち望んだお客様がいらっしゃる日。いつもは気乗りしないこの仕事も、今日だけは頑張れる。いや、私がやらなくては。
私は、故人が大切にしていた物から記憶を読み取り、故人の遺志や染み付いた思い出を遺族に伝える、という少し変わったことを生業にしている。故人の強い思いにさらされ、気分が悪くなることが多いが、こういう仕事がないと立ち直れない人だっているのだ。積極的にはなれないが、私ができる数少ないことだと思って今まで続けてきた。
しばらくすると、喪服姿の初老の女性が部屋に入ってきた。彼女が、私が待っていたお客様。友達のお母様だ。
「これが…、あの子がずっと大切にしていたものなの」
たった一人の娘を亡くし、打ちのめされているのだろう。挨拶もなく、ふくさに包まれたストラップを差し出した。
「これは」
お母様は黙ってこくりと頷いた。
これは、私と彼女が初めてお揃いで買った、思い出のストラップ。死ぬまで、大切にしてくれたのか。
溢れそうになる涙を堪え、ストラップに触れる。
閉ざした目の裏に、彼女との思い出が蘇る。
たまたま入った雑貨屋で、このストラップを見つけたこと。一緒にはしゃいで学校へ通ったこと。大人っぽいカフェでお喋りしたこと。私が記憶を読み取る力のことを打ち明けたこと。病室で、お母様や私に笑顔を向けていたこと。
本当は不安で仕方なくて、夜に一人で泣いていたこと。
ストラップから、手を離した。
気付いたときには、涙が頬をつたっていた。
7/6/2023, 1:10:25 PM