君が幸せだったのかわからない。
私のもとに嫁いできた君。白い胸元には、いつもヒヤシンスの扇子をゆらめかせていた。
水色の淡い眼差しを虚空に漂わせて、「もぬけの殻だ」と囁かれていた。その夏の夜空のような瞳に、私の姿が映ることは一度もなかった。
ふらりといなくなってしまったのは梅雨晴れの午後だ。君は香りひとつ残さなかったのに、ヒヤシンスの扇子だけが、きちんと畳まれ残されていた。
年月が過ぎた。私の目はもう何も見ることができない。それでも、今でも君の姿を見たいと思っている。いたいけで物憂げなあの横顔を、この目に永遠に閉じ込めていることを許してほしい。
君は私を知らないだろう。でも、君の見た景色のなかに、私はまだ生きている。
『君の見た景色』
8/15/2025, 8:27:58 AM