宵街

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 白いこの部屋に無機質な電子音と呼吸器の音だけが響いている。規則正しい呼吸が、やまない電子音があなたが生きていることを証明していた。

 ただそれだけが。

 もうどれだけの時間が経ったのだろう。もういつからあなたの声を聞けていないのだろう。
 早く起きてほしいと願うばかりで、何も進まない日常に慣れてしまっていたことがとても悲しくて。

 夏になったら風鈴を買おうと話していたのが、その何気ない会話自体が、あなたの遺言になるかもしれないなんてそんなこと思いたくもない。それなのに。

 手元にあるのは、『尊厳死への同意書』という極楽浄土の蜘蛛すら見捨てた地獄との契約書。

 あなたが何をしたというのか。ただ生きていただけのあなたが、困った人に悩むことなく手を差し伸べられていたあなたこそが仏のような人だったじゃないか。

 ねぇ起きて。こんな紙書きたくないんだよ。まだまだ行きたい場所だって、話したいことだってある。
 風鈴、選んでないよ。青が好きなあなただからきれいな風鈴買いたいって思っていろいろ調べたのにさ。

 涙が一つ、あなたの手に落ちた。
 その瞬間、あなたに強く手を握られた気がして顔を上げれば。

 今更「おはよう」なんて笑いやがって。

19.『病室』

8/2/2023, 1:59:59 PM