特盛りごはん

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 いつもは真っ直ぐ通り過ぎる少し寂れた郵便局のある角を初めて曲がった。寄り道しないようにと口酸っぱく言い聞かせてくる大人達の声を思考の外に追いやって、小さく確実に歩みを進めながら塾の重たい教材の入ったカバンの紐をぎゅっと握りしめる。
 ドキドキと胸が高鳴るのは見慣れない景色のせいかイケナイことをしている自覚があるからか。どちらも、かもしれない。
 郵便局の角を曲がって直ぐに住宅地に入った道は長らく一本道だが、次に曲がり角が来たら、分かれ道が来たら、どちらに行こうか。そう考えるだけでワクワクする。
 気持ちの高揚に釣られるように段々と歩調を上げながら進んだ先、漸く見えた曲がり角は残念ながら右しか選択肢がなかったけれど。それでも曲がった先に見えるだろう新たな見知らぬ景色への期待を胸に大きく足を踏み出した。僕の冒険はこれからだ!

「あら。うちに用かしら?それとも迷子?」

 大きな勇気で始まった僕の小さな冒険は、突き当たりに住む斎藤さんの言葉で静かに幕を閉じた。



/この道の先に

7/3/2023, 3:54:07 PM