大袈裟だと言われた。
幼少期に言われた言葉。今でも刺さったトゲが抜けない。
あれから、どんなに痛くても、どんなに悲しくても何でもないフリをした。
苦しい時からも辛い時もなんでも無いフリを続けてきた。
いつの間にか本当になんでも無い事のような気がした。
苦しいのも辛いのも自分が大袈裟なだけなんだ。
毎日学校へ行くのが嫌だった。陰でヒソヒソと笑われるのが辛かった。周りの視線が怖かった。
だけどそれも全部自分の考え過ぎなんだ。その程度なんでも無いと思うようにした。きっと本当に何でもない事だったんだ。
大人になって会社員になった。
毎日仕事が辛かった。
怒鳴る上司は何を怒っているのかもわからなかった。誰にだって怒鳴りつけていて、些細なミスでも怒っていて、挙句は悪いのが自分じゃ無くても怒られた。
残業は当たり前だった。残業代は出なかった。家に帰るのはいつも終電、食事はコンビニの売れ残り。食べる事すら億劫で、早く寝てしまいたい身体に鞭を打って風呂に入る。
数時間後にはすぐ出勤し、また怒鳴られる毎日に根を上げてしまいたかった。
でも大袈裟だから。自分は大袈裟な人間だから、こんな事で弱音は吐けないと飲み込んだ。
大袈裟だから。なんて事ないないんだこんな事。些細な事だと飲み込んだ。
気の所為だと、何でもないフリを続けていれば本当に何でもなくなるから。
何でもないフリを続けた。
どれだけ仕事を押し付けられようと、どれだけ理不尽に怒られようと、寝る時間を削り、終電で帰る日々も周りだって頑張っていると思い込んで。自分が大変と思っているのもきっと大袈裟なだけだと言い聞かせて。
何でもないフリを続けた。
何でもないと思い込んだ。
何でもないと思っていた。
だけどもう耐えられなかった。
会社の屋上。普段から誰でも出入りが出来る場所。
高層ビルでは無いけれど充分な高さはある。
周りは高いフェンスで囲われているが、よじ登れば越えられない事はない。それ位は何でもない。本当に、些細な事だから。
みんなまた大袈裟だと言うだろうか。何でもない事だったのにと言うだろうか。
大袈裟でももう良かった。これ以上何でもないフリは出来なかったから。
最後は大袈裟な自分に正直になりたかった。
最期は、あのトゲを抜いて、自分に正直になりたい。
ずっとずっと苦しかった。だから今、楽になります。
***
最期の手紙には、こう綴られていた。
『大袈裟な子供でごめんなさい。何でもないフリが出来なくてごめんなさい』
本当に追い込んだのは、一体誰だったのか。
#何でもないフリ
12/11/2023, 6:37:03 PM