物音一つしない、暗闇の中。
果てなき道を、只々歩き続ける。
ゴールなんて見えない、この先がどうなっているのかすらも分からない。
心の中に常にあるのは、恐怖という感情のみ。
怖くて、怖くて、嫌で、嫌で。
けれど、止まることは許されない。
時間ある限り、歩み続けなければいけない。
あぁ、いつになったらこの道を抜けられるのだろう。
...そう思っていたら、突然目の前に明かりが灯り始めた。
その瞬間俺は、今までに無いくらい全力で走った。
走って、走って...手を伸ばした。
希望の光に向かって。
そして、ようやく...俺はその場所にたどり着くことが出来た。
暖かい空気、幸せそうな人達の顔、綺麗な花畑。
まさに、楽園のような場所。
...あぁ、俺はこれで、やっと...”楽になれる”
---二作目---
『何でこんな事も出来ないんだ...!?』
『もう少し兄を見習ったらどうなんだ!!』
真っ暗な部屋の中に響き渡る怒号。
ドンッと言う音と共に全身を駆け巡る痛み。
...ここでもし、涙が出たのなら良かったのかもしれない。
けれど俺の身体は、見慣れた過ぎた光景に、もはや涙の一滴すら零れない。
幼少期の頃から、ずっとこの調子。
価値の無い人間と言うハンコを押され、背中すら見えない兄と比べられて。
罵詈雑言の嵐や暴力を、常日頃から受けてきた。
辛くて、身体は相変わらず痛くて。
だからと言って涙が出てくれるわけでも、救いの手が差し伸べられる訳でもない。
反抗すれば、更に痛いお仕置が待っている。
だから、ずっと我慢してきた。
最大限に足掻いて、気持ちも、感情も押し殺して。
...でも、もう限界だ。
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下から吹き抜ける、冷たい風。
正面で輝く、美しい太陽。
カランカランと鳴り響く鐘の音。
...あぁ、ここから落ちれば、きっと楽になれる。
...あの現実から逃れて、死ぬことが出来る。
正直いって、死ぬのは怖いし、出来る事なら生きていたいけれど。
こんな現実から逃れるためには、仕方の無い事。
どうせ俺が死んでもお父様は悲しまないし、別にいいだろう。
家から少し離れた、鉄橋の上。
靴を脱いで、落下防止のために付けられた柵に手をかけよじ登る。
まるで俺の死を祝福するように、そよ風が吹き、太陽の光でキラリと目の前の景色が光り輝く。
こんな時でも、世界はこんなにも美しい...そんな中で楽になれるなんて、なんて幸福なんだろう。
そんな事を呑気に思いながら。
俺は、その光に向かうように、足を進めた---
#一筋の光
110作目
...グイッ!ドサッ......
「...いっ!?...た...」
線路の上に落ちて、そのまま見るも無惨な姿になっているはずの身体は原型をしっかりと留めたまま、
また別の痛みに襲われた。
「はッ...な...んでッ...」
「ッ!お前...何やってるんだよ!?」
声をした方を向くと...そこには尻もちを着いたせいらの姿があった。
「せ、いら...どう、して...!?」
俺がそう口にした瞬間に、せいらは俺は俺の体を強く抱き締めた。
「バカっ...!わいむのばかやろう...!!もうなんでッ...!!」
徐々に抱きしめる力は強くなっていって...珍しく叫ぶように声を荒げていた。
...なんで俺は、忘れていたんだろうか。
唯一気にかけてくれていた、こいつの存在を。
「...ごめんな...せいら...」
俺はせいらの背中に腕を回した。それで掠れた声をあげた。
「...謝るなよ...バカッ...」
その時、世界が照らされた気がした
11/5/2023, 12:13:41 PM