揺れる羽根
仕事を終えて家に帰る。玄関ドアを開けた途端に、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
うちにペットはいない。甲高く、短くピ、ピ、と鳴く声は、インコか文鳥あたりかと、柊介は考えた。今までそんな話をしたことはなかったのだが、圭はペットが欲しかったのか。
「ただいま」
「あ、柊介おかえり」
リビングのフローリングに圭が座っている。
肩の辺りで切りそろえられた彼女の髪が揺れ、振り返る。風呂上がりのさっぱりした様子で、両手の掌に白い鳥を乗せている。
「へえ、かわいい。飼ったの?」
「ううん。友達が急な出張になって、預かることになったんだ」
白い体に桃色の嘴がついている。先程まで鳴き続けていたのに、今は僕の顔をじっとみて黙っている。
「人見知りさんかな? 私は何度か会ってるけど、柊介は初めてだもんねぇ」
心做しか、普段より圭の声は高く、テンションも高い。
「文鳥?」
「そう。雪之助って名前だよ」
「しぶ」
可愛らしい丸いフォルムは、確かに雪玉みたいだとは思ったのだが。
「男の子?」
「いや、女の子」
なんでそんな名前に、という心の声が漏れていたようで、圭は言葉を続けた。
「この子がヒナの頃から育ててるんだけど、文鳥のヒナってオスメスの区別がつきにくくて。ショップの人が多分オスですーって言ったから、雪之助って名前にしたんだってさ。女の子だったら小雪とか、可愛らしい名前にしたのにって言ってた」
「はー、なるほど」
「だから雪之助じゃなくて、ユキって呼んでる」
圭がユキと言うと、小さい雪玉はまたピッと小さく鳴いた。
「ユキー」
腰をかがめて名前を呼ぶ。すると勢いよく圭の掌から飛び立った。
「うわ!?」
「あはは! そんな驚かないでも」
勢いよく飛び立った雪之助は、頭の上に着地した。それに驚いて二、三歩後退り、テーブルに腰をぶつけた。雪之助も驚いたのか、頭の上で抗議するかのように激しく羽をばたつかせている。
羽が揺れて、髪の毛も舞う。
「ユキちゃーん、おいでー」
圭が手を伸ばし、雪之助を指に止まらせた。やっと落ち着いたのか、雪玉は鳥らしく羽を膨らませ、大きく身震いした。
10/26/2025, 1:46:44 AM