かたいなか

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「わぁ。来た。去年もバチクソに悩んだお題」
某所在住物書きは「愛」と「平和」を双方ネット検索にかけながら、深く長いため息を吐いた。
双方に単語や仕組み以上の意味を抱きづらいのだ。

愛である。愛情ホルモンと俗に言われているオキシトシンは、「仲間以外への攻撃性」も一緒に持ち合わせているという。
平和である。「世界全員これ皆家族」は多様性も認められているとは思うが、現実を見れば二次創作の解釈論争にカップリング闘争、「家族こそ敵」が横行。
愛&平和とは何であろう。

「……少なくとも二次が『平和』だったら、俺このアプリに来なかったわ」
野暮なので詳細は省く。

――――――

突然支店に異動になって、早くも10日くらい。相変わらず3月から発生してる謎は全然解けてない。
先輩どこ行っちゃったの。付烏月さんって、誰。

長年一緒に仕事してた先輩は、名前を藤森っていって、私同様いきなり部署を飛ばされたんだけど、
この先輩が今どこで仕事してるかサッパリ。
なんならこの先輩が今まで住んでたアパートに、家具そのまんま、内装手つかずで、「謎の男」が変わりに住みついてて、そのことを先輩も了承済みという。
しかもこの謎の男、私の異動先の人なのだ。
挙句の果てに藤森先輩の旧姓である「附子山」を名乗ってるっていうトンデモ展開。

3月から支店で一緒に仕事してるこの自称附子山さんは、名前を付烏月、ツウキっていう。
お手製お菓子がバチクソ美味しい。
先輩は「安心して頼れ」って言うけど、
ぶっちゃけ、この静かで平和な支店の中で、
常連のおばあちゃんとお茶飲んで、お菓子食べて、お話するのが日常業務なラブ&ピースな支店の中で、
付烏月さんに対する私からの好感度だけ、不穏です。

「付け焼き刃附子山の〜、付け焼き〜Tipsぅー」
「今日もやるの付烏月さん」
「附子山だってば後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「で?」

「恋と愛、愛と平和、実は頭の中では別々なの。恋すると、頭のブレーキの効きが悪くなって、かつストレスホルモン等々が増える。愛はブレーキの効きが元に戻って、絆ホルモン等々が増える。完全平和を『争わず』とするなら、多分そこに『絆』は無いよん」
「平和に『絆が無い』はおかしいよ」
「その『絆』を担う通称愛情ホルモン、オキシトシンが、そもそも敵と味方を線引きしたがるからねー」
「つまり今、私の『愛情』は付烏月さんのことを、まだ敵か味方か線引きできてないワケだ」

「今日のおやつはオーツ粉ラングドシャだよん」
「いつもありがとうございます附子山さん」

1日10人も来れば「今日は忙しかったね」な支店は、先月まで居た本店の部署に比べて、本当にピースフルで、チルチルしい。
モンスターカスタマー様はこの10日で1度も遭遇してないし、クレーム等々の変な電話も来ない。
外からのパトカーとか救急車とかのサイレンが無ければ、自分が東京に居ることすら、忘れそうだ。

そんなチルな支店に、先輩が居ない。
今までずっと一緒に仕事して、別に恋とか愛とかそういう対象じゃないけどシェアランチして、
去年の先輩の「恋愛トラブル」も、
つまり先輩が「附子山」から「藤森」に改姓した元凶との最終決戦的ないざこざも、一緒に解決して、
2月末には、先輩の雪国に一緒に帰省もしたのに。
その先輩が、3月から、パッタリ居ない。

「……そういえばその『恋愛トラブルの元凶さん』がウチに履歴書出して、採用された、って」
「『恋愛トラブルの元凶さん』、加元のこと?」
「付烏月さんには関係無いと思う」

「試作の米粉ラングドシャも食べる?」
「ありがとうございます附子山さん」

愛&平和な支店で、付烏月さんだけが私にとって不穏で、多分私の知らない場所で「何か」が動いてる。
その「何か」の正体がいつ判明するのか、今の私にはサッパリなので、
とりあえず、今日は美味しいオーツ粉と米粉のチョコ&ジャム or クリームチーズなラングドシャで、平和して、平穏して、満足した。

3/11/2024, 2:24:01 AM