12歳の叫び

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目が覚めると――。
目が覚めると夢の中にいた。
それは、ふわふわとした真っ白な地面がずーっと続いている場所。何も無くて、ほんと、大きな豆腐みたい。
「ようこそ! 貴方はやっと一番の願いがかなったのですよ! 私は褒めます! 褒めて差し上げましょう! おめでとう! 貴方は幸せになれるのですね!」
言葉一つ一つに感嘆符の着くようなハキハキとした喋りをする、小さな――小さな女の子がいた。
真っ白なフリフリのドレスを着て、髪の毛は濡れ鳥のようだ。あぁ、私のなりたかった姿だ。
「……明晰夢?」
「あははっ! 何を馬鹿げたことを! 明晰夢なんてものじゃあないよ。ここは現実だ。そして――お前は死んだ」
死んだ。
死んだ?
私が? 私が死ねたの?
あぁ、確かに死にたいと思った。そして、願ったよ。
でも、そんな簡単に死ねるの? 死んだらこんな世界なの? あれ、なんだか思ってたのと違うよ。
私はただ、死んで皆が涙を流し、後悔をする姿を見たかっただけなんだよ。
「……なんで死んだの。そして、あなたは誰なの?」
「お前は死にたいと願っただろう? だからここへ連れてきてやったんだよ」
「……そう」
決して、自分のことには触れようとしない女の子の瞳には、どうしても人工物のようにしか見えなかった。
「お前は、なぜ死にたかった?」
「急な質問だね。私が死にたいこと、知ってるくせに理由は分からないんだ」
「お前の気持ちが丸まったゴミみたいに汚いから、私には読み取れなかっただけだ」
「なにそれ、いやぁな言い方!」
「いいから早く言え。私は暇じゃないんだよ」
腕を組み、私の瞳をキリッと睨みつける女の子は、腕を組んで手の動きが止まらなかった。
「――そうだなあ。あれはほんと、最近のことなんだよね」



四月

中学校に入学して、元々仲の良かった子と同じクラスだったことを理由に、中学校でもずっと一緒だった。
あの頃は、幸せでも、普通でも、最悪でもなかった。ただ、何も無い。それだけだったんだ。
勉強について行くために必死で友人関係なんてどうでもよかった。

五月
初めての学力テストに向けて、まだまだ勉強を頑張っていた。
この頃だってどうでもよかった。友達なんて、どうでもよかったんだ。

六月
この頃からだ。勉強が落ち着いて、なにかに没頭する時間が無くなって、少し友達との距離感を感じて、紙に自分の気持ちを書くようにもなった。

七月
これは最近だね。
三人で歩いていると、私以外の二人の出身小に居た先生が来た。まあ、その前から二人は仲良く手を繋いでいた。私とは繋がなかったのに。
そして、先生はこういうんだ。
「二人は小学校からずっと手繋いでるよね。この子は〇〇小じゃないから分からないけどがんばってね。仲良し3人組なの?」
気持ち悪かった。
てか、そもそも3人で歩いていた訳では無かった。
教室を出る時、たまたま一緒になっただけだし、仲良し3人組ってなんだよ。私は二人と仲良いつもりなんてない。前までは自分と友達の一人で、2人。仲良いよねって言われていた。
その時だってちゃんと首を傾げて「違いますよー」ときちんと言った。なのに勝手に言う大人が嫌いだった。

一人でいることが可哀想だという友達も、先生も、みんなみんな気持ち悪くて、吐き気がして、なのに学校にはきちんと行っていて、偉いよね。

でも、どうしても耐えられなくなっているこの頃だ。
明日が嫌で涙が出る。
呼吸が苦しくなる。
唇を噛みすぎて血が出てくることもしょっちゅう。
手の震えが止まらない。
上手く笑えない。
やらなくちゃいけないことが出来ない。
優しくなれない。
笑いを取れない。
ミスが増えた。
寝ることが怖い。
全部全部、おかしくて。どうしたらいいのか分からなくて――また同じことの繰り返し。

でも、虐待も虐めもされてなくて、毎日美味しいご飯が出てきて、幸せなんだよ。なのに、幸せだと感じられない。そんな自分が気持ち悪い。

だから、死にたいんだ。

「死んでも脳があるのね」
「まあな」
「なんだ。私の想像してたものじゃないんだね。辛い思い出、消えないじゃんか」
「……まだ死にたいか」
「は? いや、もう死んでるし」
「……まだ気づかないか? 死んでるというのは、肉体的にでは無い。心がだよ」
「心? 」
“心”と言いながら、女の子は自分の頭を人差し指でコツコツ叩いた。
「あぁ、心がだよ」
「じゃあ、ここはなんなの?」
「ここは――お前の心だ」
「……は?」
「安心しろ。お前はおかしくないんだよ。お前の心の土台が脆すぎただけだ。幸せはそれ程多くないし、重くもない。お前の土台が脆すぎただけなんだよ。私は神にお前を救えと言われただけだ」
「じゃあ……貴方は、神様に伝言。伝えられる?」
「……ああ、伝えられるよ」
神様は、私のことを、そっと抱きしめてた。強く、骨が砕けてしまうほどに強く抱き締めた。
その強さに私は耐えられず、足がすぐみしゃがみ込んだ。
「神様、どうか私に返してください。私に春を返してください。青い青い春を返してください。お願いします。周りの青い芝生なんていらないから。私に青い芝生に、青い桜をください。助けてください。私はこれからも生きていけますか? 幸せになれますか? 優しくなれますか? 人に好かれますか? 助けを求められる人間になれますか? こんな言葉を、言わなくて済む人生を送れますか……」

7/10/2024, 2:04:46 PM