ぴろっ。
湯上りに髪を乾かしていると、スマートフォンが鳴った。
それはとても小さく、けれどとても大きなものだった。
鳴り終わるより早く、さながら百人一首の選手のような反応で手を伸ばし、ロックを解除する。
送り主は委員会の先輩。本が好きで、優しくて、好きな作家が同じで、あと単純に顔が好みな彼に、勇気を振り絞った。
明日は土曜日。季節は夏。商店街は納涼祭を行う予定で、その商店街はこちらからもあちらからも電車で一駅の距離。
一緒に行きませんか。その言葉を震えずに言えたかどうかも覚えていない。
彼はOKをくれた。ただ、家の用事があるから、時間はまた後で連絡すると。
その返事がきた。一九時頃になってもいいかと。それでもいい。一緒に行ければそれでいい。
送り返して、深く息を吐く。
明日。一九時。何時から支度を始めたら、それより浴衣、どこにしまったっけ。それに着付けをお願いしないと。
急いでドライヤーを済ませ、勢いよく部屋のドアを開けた。
「お母さーんっ!!」
階下から、事情を知らない母ののんびりした声が返ってきた。
7/11/2024, 9:21:03 PM