NoName

Open App

「朝日の温もり」

カーテンの隙間から差し込む朝日が天井に細い光の帯を作る。起きるにはまだ早いな。隣で眠る彼はまだ熟睡している。

ちょっと、いたずらしたくなった。少しだけカーテンを開けて彼の顔をまじまじと見つめる。就職して以来、ずっとデスクワークで会社から出ないから、すっかり色白になった。甲子園を目指してグラウンドを走り回っていた頃の面影はない。

坊主だった髪は長く伸ばした前髪をセンター分けにしている。そっと前髪に触れると少し身じろぎした。あわてて手を引っ込めたけど起こしてはいないみたいだ。今度は鼻筋を指でなぞる。頬をつつく。唇も。

ちっとも起きないものだから、だんだん大胆になる。もう少しカーテンを開いて顔に直接朝日を浴びさせる。一瞬だけ顔をしかめたものの、まだ起きない。

首すじをこちょこちょすると、さすがに気がついた。
「いたずらっ子」
まだ眠いのか目は閉じたまま手が伸びてきた。
「あったかい」
私の手を頬にあてたまま、朝日の温もりを確かめている。そのまま目を閉じて二度寝の心地よさに身を委ねる。

「ジリリリリリ〜」
けたたましい目覚ましの音で強制的に起こされる。目を開けると彼の顔が間近にあった。
「いたずらっ子さん、おはよう」
「おはよう」

幸せは朝日の温もりが運んでくる。

6/9/2024, 12:44:53 PM