(極度に悲哀の方へ立つとして(きっと))心はつねに回転する多面体だ。
いつか亜熱帯を模した植物園の一角で、何気なく見かけたラフレシア・アルノルディイ。といって、それは模型でしかなかったけれど、その巨きな姿態に私は魅せられた。いま心残りなのは、その佳香を直接に確かめることが出来なかったことだ。
彼が私に快復不可能な傷を残して行ったのは、もう数週も前のことだ。あれから、私の精神は輾転として惑い続けている。もう二度と謝意を受け取ることさえ出来ない私。私に傷痕ばかり見せる私の心。
きらめくような、赤に白の斑模様――音を立てて飛び交う蠅――ひとの心は花を観るとき、花に成ると言ったのは誰だっただろう――でも、彼は?私は?
私の眼は蠅の軌道を追いかける。蠅になった私は、私の周囲を旋回しながら、やはり私の心模様など理解し得ないだろう。ただ、私の匂いに引き寄せられて飛ぶばかりで、その世界には私の心の置き処などないだろう。映発のない環世界。彼の心には私の心など終ぞ映らなかったのだろう。そして、私の心はいずれ壊れてしまっただろう。
私の心は球には成れぬ、止むことのない回転体だ。今日も小暗い森の底で彼の訪れを待っている。
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今日の心模様
2023.4.24
4/23/2023, 7:14:45 PM