きゅうり

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放課後、校舎裏。少女漫画で言えば告白シーンに出てくるような典型的なシチュエーションで、俺は今、例にも漏れず学年一の美女に告白されている。

「えっ、えっっ??北村さん。それって俺に言ってるの?」

どうやったらここまで情けなくなれるのか分からないほど俺は狼狽えていた。
なんなら、上ずって気持ち悪い声が出る始末だ。
でも、どんだけ情けなくともそこんところの事実はしっかり確かめとかなきゃ後々取り返しのできないことにでもになりそうで怖かった。

「目の前に、鈴木くんしかいないのに、他に誰に告白するっていうの?」

ふふと花が綻ぶように俺を少しからかうように笑う彼女はやっぱり美しくて綺麗で、目の前の現状を把握するのに俺は長く時間がかかった。

信じられない。信じられないが、こんな劇的なチャンスを男として逃す訳にはいかない。
ので、返事は

「み、みみ身の丈に合わないものですが、よろしくお願いします!!」

もちろんYESでしかなくて。やっぱり返事も先程と同じくきもく、格好のつかない俺らしい情けないものだった。


次の日。それはそれは浮かれた心地で学校に行くと、俺と彼女が付き合ったことは瞬く間に噂として学内に広がっていたらしく、友人から速攻で糾弾を受けた。

「お前どういうことだ鈴木!!」
「なんでお前みたいなやつが高嶺の花である北村さんと付き合えてんだよ!」
「陰キャのくせに!」
『おかしいだろ!!!!』

それはそれは酷い罵詈雑言で、しまいには最後のセリフは満場一致でみんなの声が揃っている程だった。

クラスの中に入ればヒソヒソと囁かれている始末で、自分の席にただ座っているだけでもいささか居心地が悪かった。

そんな何処かいつもの日常とは違う日を半日過ごして昼休みになった。
いつものように友人と購買に出かけようとした時

「鈴木くん!!」

後ろから声を掛けられた。
振り向くとそこには北村さんがいて、少し焦った顔でこちらへ走ってくる。

「北村さん、どうしたんですか?」
「お昼、せっかくだから一緒に食べようよ。」

昨日に続き今日まで。俺はなんて幸せものなんだろう。
と、馬鹿みたいに惚けていたところを隣の友人に強めに肩を叩かれて正気に戻った。

「も、もちろん!」

屋上に行くと、そこには誰もいなくてここに昼食を食べに来たのは俺たち2人だけのようだった。
2人きりのシチュエーションにまた浮き足立つような気持ちになって、それを悟られないように菓子パンを頬張っていたらまたも肩を叩かれた。

「鈴木くん。あーん。」

北村さんは、そう言いながら玉子焼きをお箸でつまんで俺の口元へと差し出す。

そんな状況に俺は半ばパニックなっていた。

やばいやばいやばい。
どういうことだこれ!?
俺が、北村さんにあーんしてもらうなんてどんなご褒美だよ!??
もう意味わかんねぇよ!!
なんか色々超えて嬉しすぎて今なら空飛べそうだわ

自分の中の感情を閉じ込めておくキャパが限界を迎えて、そんなバカげたことを思った瞬間。

思いに比例するように、現実的ににありえないことに俺の身体は宙に浮かんだ。


どういうこと!!?

次は俺は違う毛色のパニックに襲われた。

え???なんで俺浮いてんの。何コレ?え、ええ?

俺は北村さんを置き去りにどんどん空へと浮かんで、雲へと近づきそうになった、その瞬間、、、


――目を覚ました。

目を開けて最初に見たのはいつもの天井で、一階から母さんの早く起きろと言う声が聞こえた。

生まれてきて始めて目覚めたことを後悔した。と同時にそりゃそうだとも思った。

いつも通り学校に登校しても、俺の友人はいつも通りで、誰も俺が北村さんと付き合ったことを糾弾する声は無い。

当たり前だ。夢だったのだから。

教室の廊下側の窓際の自分の席に座って夢を振り返ってみる。

そういえば、そもそもうちの学校の屋上は解放なんてされてない。
そこから夢だと気づければもう少しダメージは少なかっただろうか。

ただの夢を見たはずなのに、なんだか目の前の幸福を取り上げられたような悲しい気持ちで俺は教室からぼんやりと廊下を見つめていた。

思えば、学校一の美女と付き合えるなんてそんなベタな展開現実でほぼあるはずなんてないのだ。

まぁ、百歩譲って、同じく顔の整った男が彼女と付き合うのならわかるが、特に目立ちもしない陰キャの俺が彼女のお眼鏡になんぞかかるわけが無い。天地がひっくりかえらない限り、俺と彼女が付き合うなんて現実あるわけないのだ。

なんか、考えれば考えるほどなんだか惨めになってきた。

結局俺にはいつもの当たり障りのない平穏な日常がお似合いってわけだなと考えがまとまったところで机に突っ伏してふて寝することに決めた。

まぁ、さっき噂の彼女が廊下を通る時に目が合ったような気もしたが、そんなことは俺の勘違いだと惨めな期待を追いやるようにして、俺はまた幸せな夢を見られるように願って机の上で眠りについた。



―――典型的な夢オチ

お題【平穏な日常】



蛇足 不思議なことに天地がひっくり返って彼らは付き合うことになります。

3/11/2024, 3:54:13 PM