凍える指先
寒い寒いと身を寄せてきて、まるでそれが当たり前みたいに腕を絡めてくる。人混みの中でも、放課後の帰り道でも、君はこうして私を見つける度に自然に寄り添ってくる。その仕草はあまりにも甘くて、あまりにも無邪気で、だからこそ胸の奥がぎゅっと冷えていく。
君には恋人がいる。君はその人の話をするとき、表情がふっとやわらぐ。その笑顔を見る度に私は自分の感情をどこに置けばいいのか分からなくなる。
君は誰と付き合っても、誰を好きになっても「大好きだよ」「一番頼りにしてる」そんな言葉を私にくれた。それがどれだけ幸せなことか、痛いほど分かっている。
だけど、それでも、満足なんてできない。
たとえ君が私を一番に想ってくれても、それは親友としての一番だ。君の大好きは、私が抱えているそれとは決して同じではないのだと突きつけられる。
君の体温は確かに私の腕まで伝わってくるのに、指先だけはじんと冷えたまま。血が引いていくみたいに、温かさがうまく巡らない。
隣にいられて嬉しいはずなのに、同じ距離を歩けば歩くほど胸の奥の切なさだけが鋭くなっていく。
交差点に差し掛かり足が止まる。赤になった信号をぼんやりと見ていると腕を軽く引かれた。
目をやると君がふっと見上げて笑う。
「手、冷たくない? あたしのポケットに入れていいよ」
そんな優しさを向けないでほしい。期待してしまうから。届かないと分かっている気持ちが、また勝手に膨らんでしまうから。
分かれ道が近づいた頃、君がふいに弾む声で言った。
「明日ね、久しぶりにデートなんだ。映画観て、そのあとカフェ行こうって話しててさ」
その表情は本当に楽しそうで、柔らかな笑みがこぼれていた。
君の笑った顔が好きだった。
けれど、そんな君の明るい表情さえ胸に刺さる。言葉にならない感情が、胸の奥に広がっていく。
私の腕を取った手。私の手を握った指。
そのすべてが明日には同じように恋人へ向けられる。
そう思うだけで息の仕方さえわからなくなるのに、それでも口だけは勝手に動いた。
「楽しんでね」
心にもないはずのその一言に君は嬉しそうに笑い、足取りを軽くして分かれ道へ進んでいく。
私は手を振ってその背中を見送る。君がわけてくれたはずの体温は、あっという間に風の中へ散っていった。
君が見えなくなってからすべてを吐き出すみたいに深く息を吐く。
冷たくなった指先に君が触れていた感覚だけがうっすらと残っていた。
12/9/2025, 3:47:10 PM