ことり。ことり。静寂な小部屋に響くのは、盤上の駒の足音のみ。
今にも張り裂けそうな詰めきった空間は深呼吸すら許されない。
状況は優勢、このまま進めば誰もが自分に軍配を上げる。それほどまでに分かりきった未来へ着々と近づいていく。
ゴトッ。ふと明らかに駒より重く鈍い音がした。
盤上から目を上げると、対面に座る友人が、駒を動かすはずの右手で砂時計をいじりながらにやりと笑っていた。
「こっからは僕のターンかな」
ガタン、とわざとらしく音をたて砂時計が逆さまにひっくり返される。
次の一手から形勢が逆転したのは言うまでもない。
「逆さま」
12/7/2023, 9:54:02 AM