箱庭メリィ

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 年に2回。
 ここに妻と来ることが習慣となっていた。

「まさか、ここに私ひとりで来ることになるなんてねぇ」

 なだらかな丘の上にあるそこは、なだらかとはいえ勾配のある坂が高齢の体につらい。

「二人で上っていたときは、そんなに辛くなかったんだがね」

 よいしょ、と借りてきた手桶と柄杓を灰色の石の前に置く。

「来たよ、母さん。君の好きだと言っていた吉木屋のおはぎを持ってきた」

 君と歩いた道を、今年はひとりで歩いていく。
 春先に亡くなってしまった最愛の妻に声をかけ、墓石に水をかけていく。

「喜んでくれるかねぇ。味が違うなんて、文句は言わないでくれよ。残っていたのがそれだけだったんだ」

 軽く周りの草むしりもし、手を合わせる。

「まあ、そんなに遠くない先にここに来るからさ。気長に待っててくれ」

/6/8『君と歩いた道』

6/9/2025, 9:59:11 AM