かたいなか

Open App

偶には、玉には、多摩には、田間仁は。
全部ひらがなのお題は漢字変換が容易で、いろいろイジれるというものですが、
結局、たまの贅沢とか、たまに見つかるとか、オーソドックスな物語をご紹介する物書きです。
「多摩には2羽ニワトリがいる」なるネタを置いておきますので、ご自由にお持ちください。
と、いう前書きは置いといて。

「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこに都内在住の稲荷子狐が、今月1日から修行に出されておりました。

ところでその稲荷子狐
修行にあたって管理局員のための
アパートモドキないし寮モドキの個室1部屋を提供されたのですが、
まさかのその1部屋に先日、自称子狐の前に部屋を使っていた先代ルリビタキなる幽霊が出まして。
なんならその日もドロンドロン、子狐がご利益たっぷりの稲荷餅を作ってる最中、
部屋の隠しキッチンに、入ってきまして。

「オバケさん、オバケさんだ」
ぺったん、ぺったん、もひとつぺったん!
稲荷神社に伝わる由緒正しい臼と杵で、コンコン子狐が餅をつきます。
「オバケさん、キツネ、今おもちをこさえてるの」
まだまだ子供の子狐です。なにより幽霊なんて、見飽きている子狐です。
死人が突然現れたって、怖くありません。
「ダメだよオバケさん。今日は、遊ばないの」

『いや、遊びたくて戻ってきたのではないんだよ』
先住民の野郎幽霊は、自分が作った隠しキッチンの機能だの道具だのの、案内をしたかったのです。
『子狐ちゃん、きみ、お料理が好きなんだろう。
僕も生前、料理が大好きだったんだ。だから』
だから、同じ料理好きの子狐ちゃんに、僕の秘密キッチンを使いこなしてほしいんだ。
幽霊は丁寧に説明しますが、
コンコン子狐、ちっとも聞きません。

『子狐ちゃん。 子狐くん。こぎつね』
「だめ、ダメ!キツネ、おもちこさえてるの」
『あのね。ちょっとだけで良いから、話を』
「ダメ!キツネ、いま、おててはなせないの」

『ほんのちょっとで良いんだ。
ほら、たまには自分以外の料理人の視点を』
「オバケさんキツネのハナシきかない。おしおき」

くわっ!コンコン子狐は一声吠えると、
狐の瞬発力でもって、がぶーっ!
野郎幽霊のおしりに、全力で噛みつきました!
「おしおき。おしおき」
『わぁわぁわぁ!やめて!とめて!ゆるして!』
そのまま子狐はブンブンブン、ぶんぶんぶん!
うるさい幽霊を高速で振り回して、ぽーん!
部屋の外に、放り飛ばしてしまいました。

「よし!」

たまには、自分以外の料理人の視点を。
飛んでった野郎幽霊のアドバイスは、その辺にひとまずポイチョです。
まずはお餅を作るのです。
「ぺったん、ぺったん、もひとつ、ぺったん!」
五穀豊穣商売繁盛、諸願成就に病魔退散、稲荷のご利益は多種多様。素晴らしいご利益なのです。

『あの……こぎつねくん』
「むっ」
『分かった、分かったから。待つから。
終わったら、言って……』
「よろしー」

ぺったん、ぺったん、もひとつぺったん。
コンコン子狐はホカホカつやつや、まんまるお餅にいろんな具を詰めます。
オーソドックス・スイーツのあんこから、惣菜お餅の可能性を追求したチーズまで。
いろんなお餅をこさえて最後に、稲荷のご利益をひと振り、ふた振り。

「できた!」
『そうか、良かった。じゃあ僕の話を』
「売ってくる!」

『こぎつねくん……』

いってきます。コンコン子狐は尻尾をぶんぶん。
お餅をカゴに入れて、キッチンからログアウト。
隠しキッチンには先住民であった野郎の幽霊が、ひとりポツンと約3時間、取り残されましたとさ。

3/6/2026, 3:57:48 AM