わをん

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『待ってて』

時刻はそろそろ日付が変わる頃。きょうは学校で義理チョコ友チョコを貰ったり渡したり、手紙付きのチョコを対面で渡されかけたのを受け取り拒否したりと忙しい日だった。けれど本命からはまだ貰えていない。美味しいのを作るから待っててとメッセージが届いたもののそれからさっぱり音沙汰が無いためだった。こんな時間にあちらの家に行くのも気が引けるのでどうしたものかと思っていると電話が掛かってきた。ずびずびと湿っぽい音が聞こえてくる。
『ごめん、失敗、しちゃった』
「なんとなくそうかな、って思ってたけど、どんな失敗したの」
べしょべしょと話す声がロールケーキを作りたかったのだと言った。ケーキの中身もクリームも完ぺきに用意したのに土台のケーキ生地が膨らまず、しかも焦げてしまったらしい。だんだんと小さくなった声がまたごめんと言った。キッチンで慣れない道具に四苦八苦しながら出来上がったのが絶望の塊だった様子が目に浮かぶ。心がキュッとなった。
「わかった。じゃあ、今からそっち行くから」
『えっ、でも』
「クリームあったら、ムース作れるよ。家にゼラチンあるから持っていく」
『でももうこんな時間だし』
「俺はね、今日いろんな人から貰ったりあげたりしたけど、君から貰ったものを今食べたいわけよ」
わかった?と聞くとしばらく経ってわかったと聞こえてきた。
「なるはやで行くから、待ってて」
時刻はそろそろ日付が変わる頃だけど、まだ変わっていない。ドタバタと支度をして自転車を必死に漕ぎ出した。

2/14/2024, 4:29:22 AM